コピーが伝える想像力をデザインする
商品のアピールではなく、ユーザーの気持ちを代弁する広告
食品宅配のOisixが2019年夏に行なっていたキャンペーン広告では、食材の写真やイラストなどを使用せずに、利用者の立場を代弁することによるブランディングを行なっています。
「かあちゃん、楽しい夏休みをありがとう。」
子どもにとっては、楽しい楽しい、夏休み。
Oisix ra daichi
けれど、お母さんにとっては…
https://www.oisixradaichi.co.jp/news/posts/190827shin-chan/
このキャンペーンは夏休みシーズンもかわらず働くお母さんの苦労、エピソードにスポットを当てた言葉を中心に、ポスター広告のデザインが構築されています。
言葉の力をサポートしているのがビジュアルであり、ポスターに見えるのは商品そのものではないが魅力が充分すぎるほど伝わっている、というところがポイントです。
広告の制作にあたっては、デザインチームだけで広告を作るということはほとんどなく、クリエイティブディレクター、コピーライターといったプランニングや言葉、どう伝えるかということを考える職種の人たちとともに制作を行うことが多い世界です。(敢えてシビアに言えば、デザイナーだけで作る広告には伝える力がないということです)
Oisixの食材宅配といったサービスとクレヨンしんちゃんのキャラクターに直接的な関連性はありませんが、しんちゃんが発する言葉としてキャッチコピーをとらえることができる場合に、しんちゃんの母であるみさえの日常的な献身が想像できることによって、その言葉の力が増して広がる可能性を持つことがあるのです。
デザイナーが考えるビジュアルありきの作り方とはまた違った、キャッチコピー先行型クリエイティブの場合、デザインができることは何か、言葉がよりよく伝わるために画面の主役になるには誰が適しているのか、ということを考えてみるとこれまでと違った「デザイン」の世界が広がるかもしれません。
このような話しをしてきましたが、ここでは、広告・マーケティングを主題をしている訳ではないので、「どうすれば売れるか、より売り上げが上がるのか」ということについては触れません。
言葉が伝えようとする物語と、その「コピー 」をより強いメッセージとしてデザインがどう表現できるかという点について考えて行きたいと思います。
魅力を伝える「言葉」
優れたコピーには、そのシーンや背景を想像させる力があります。
日本でもこれまで多くの優れたコピーが生まれてきましたが、それは訓練を受けた大人だけが作れるということでもないのです。
宣伝会議賞という広告業界で長く続く公募のコピー賞では、中高生部門で発表されている作品からもとても想像力をかき立てられるコピーが多くあります。
シーンを想像できるコピーの瞬発力
例えば「コンタクトレンズ」をプロモーションするための広告にどのようなデザインが考えられるでしょうか、少し考えてみてください。
コンタクトレンズは年齢や性別、趣味などに関わらず多くの人が利用する商品です。
また、コンタクトレンズを製造・販売する企業も多くあり、その中でいかに自社の商品を手に取ってもらうか、ということがプロモーションの使命でもあります。
ポスターで大きく見せたいのは、コンタクトレンズを装着した瞳のきれいな女性モデルでしょうか、それともパッケージ写真が大きく見えるポスターでしょうか。
もちろん、そういったストレートな広告は存在します。
ただ、それだけでは商品や企業の魅力がなかなか伝わらないのはもちろん、他社との差別化が難しいことはなんとなく想像できるのではないでしょうか。
たまに眼鏡が1番可愛い
これは賞に応募した高校生の女の子が考えたコピーです。
どこか頷ける気持ちが湧いてくるのではないでしょうか。(ほとんどそう誘導しているようでもありますが…)
この「そうだよね」と思える共感がプロモーションでたくさんの人を惹きつける力になります。
ただ、広告として成立させるために、その言葉、文字の並びだけでなく、そのコピーが持つメッセージを1枚のポスターに仕上げることができるか、15秒の映像に収めることができるか、ということがアートディレクターやデザイナー、映像ディレクターたちの仕事です。
第57回 宣伝会議賞 受賞作品